完璧な無垢

山は逃げないと言うけれど、

いろんなしがらみとか、押し付けられてしまった責任とか、そんなものを言い訳に腰が重くなる。
ホントはそうではなくて、気力の衰えと覚えてしまった恐怖心で足が遠のくのだ。

どこそこで雪が降ったと聞くと、どこそこの山は白くなったのだろうと想像し、
街の風が冷たくなると、それよりもっと鋭利に、金属質の冷たい風が吹く場所に心が向かう。

重いラッセルに明け暮れ、粗食に耐え、冷え切ったつま先や指先にいらつき、
ジリジリ前進する重い体は最新テクノロジーのウェアで守ってはいるが汗臭く、ションベン臭く、
嫌になるほど不潔で、

そんな獣じみた肉体と、体の中で燃える炎、
そしてこの世で最も美しい完璧な無垢。