咲いて散る

先頭を行くSさんの前から雪面が雪崩れた。あっと思うまもなく巻き込まれ、白い視界の中を二転三転する。雪崩が止まり雪の中から抜け出すと、Sさんと私の後ろにいた仲間の姿ははどこにもない。尾根に這い上がると逆側の斜面に雪崩の走路が長々と延び、二人の死を直観した。


翌日二人は遺体で見つかる。


疲れきって山から東京に帰る。疲れきって電車に乗る気力も無くタクシーに乗ると、千鳥ヶ淵の桜が夜に輝き、その妖しいほどの、痛々しいほどの美しさが目に焼きつく。




二人は死んだが桜は咲く。今年も咲いている。







桜を見るのは苦痛だった。
時は経っても痛みを忘れることは無い。
桜を見ると必ず思い出すだろう。
痛みを忘れないために桜を見るだろう。
咲いていく桜と散り行く桜を。








人一人の命はこの桜より美しいのだよ。