雪崩ビーコンを考える

雪崩ビーコン比較 - Memories of mind that never fades.


この季節になると、「雪崩ビーコン」の検索キーワード出て当ブログにいらっしゃる方が多く、やはり雪崩ビーコンの選択悩ましいんだなと感じます。そこでまた一文を起こす気になりました。
ここ数年発売される雪崩ビーコンの新機種はどれもデジタル式です。デジタル式はアナログ式に比べると埋没者の距離と方向をそのまま表示してくれ、電波の強さを音の強さとランプの点灯で知らせるアナログ式よりも確かに捜索はしやすいと思います。が、デジタル式の捜索範囲はアナログ式より狭いということを忘れるべきではないと思います。
埋没者の雪崩ビーコンから発せられる電波は、埋まった雪の厚さと、雪の湿り気で大きく減衰します。つまり湿雪に深く埋まった埋没者は電波が弱く探しにくいのです。アナログ式なら辛うじてその電波を捉えられても、デジタル式ではまったく捉えられないという可能性も考えるべきです。
また雪崩遭難が起こった時の状況が、視界が良くて雪崩の走路もデブリの位置もはっきりわかるのなら良いのですが、視界不良下だったらと考えるとやっぱり捜索範囲が狭いというのはデメリットです。
デジタル式のビーコンの代表機種であるDTSトラッカーは、かなり捜索範囲が狭く、私の感覚だと15m以内でなければ使い物にならないと感じました。
雪崩遭難が起こった状況が、自分のパーティーのメンバーが埋まったのか、それとも他のパーティーを助けるのかでも違ってきます。2008年1月に起こった槍平小屋の雪崩遭難はまさしく他パーティーを助けるというケースだったようですが、こういう状況では複数人を探せるデジタルビーコンもかなり有効だと思います。
デジタル式になり、複雑な電子機器になっていくのもちょっと気になります。GPSもそうですが、山もデジタル機器で武装して入る時代になったのでしょうか?複雑な電子機器はそれだけ耐久性や信頼性が劣ります。雪崩ビーコンを何シーズンも使い続けても問題ないのでしょうか?雪崩ビーコンはたいてい高価で、新しいスキー板や靴が十分買えてしまう値段がします。しょっちゅう買い換えるというのも現実的ではないでしょう・・・しかしそうすべきものなのかもしれません。


日本雪崩ネットワーク |の資料では、どんな小さな雪崩でも十分な殺傷能力があるとされています。雪崩遭難の死因の大半は埋没による窒息と低体温症です。雪崩対策の訓練で埋没体験というのをやったことがありますが、雪に埋まるとまったく身動きが取れず、自分の体の上に50cmも雪が乗れば、まず自力で脱出するのは不可能です。30cmくらいでも無理かもしれません。小さな雪崩を受けて流されればその先に立木や露岩があって、そこに激突することで負傷します。負傷した状態で自力脱出なんてまず不可能と思います。「十分な殺傷能力がある」とは本当にうなずけることです。
雪崩ビーコンの機能は埋没者の見つけやすさがやはり注目される点ですが、どの方式の雪崩ビーコンでも練習を積めば埋没者をピンポイントで特定する時間的速さには大差ないと感じます。問題は、見つけてからどれだけ速く埋没者を掘り出せるかです。埋没後15分以上経過すると生存率が急低下するため、5分以内に見つけ、10分以内に掘り出すというのが目標になるのですが、自分たち山仲間で、10分という制限時間でどれほどの深さまで雪面を掘り下げられるのかやってみるのもいいと思います。3〜4人で全員スコップを持っていれば、深さ1mの穴は掘り下げられると思いますが、2mという深さはまず無理です。深さが2倍になると、その3乗、つまり8倍の体積の雪を除去しなければ2倍の深さには達しません。
幸いにも掘り出したあとどうするか?埋没者は低体温症に陥っているはずです。意識がなくなっているでしょう。やはり埋没体験でどれくらいの長さ、雪に埋まっていて耐えられるかというのもやってみましたが、2〜3分が限界でした。呼吸ができなくなりパニックとなります。埋没体験では口元にトランシーバーを近づけた状態で埋められるので、一声出せば掘り出してくれるのですが。
埋没者を助け出したあとは、保温加湿するのが原則だそうです。加湿するのは呼吸を楽にするためだそうです。テントやツェルトを張ってシェルターを作り、お湯を沸かすというのがその後やることになるのですが、はたしてそこが、テントやツェルトを張るのに適した場所かどうか?なぜなら1度雪崩がおきた場所ですよ?2度目、3度目の雪崩発生を考えるべきです。埋没者のその後の介抱は安全な場所まで移動させてからです。
埋没者の手足は冷え切っていますから、その冷えた血液が体の中心部に回って心臓麻痺を起こす場合もあるそうです。雪の中は、吹きさらしになっている地表よりも比較的暖かいということは雪山に行ったことのある人ならわかると思います。埋没者を急にその中に出さず、体をまだ雪に埋めたたままツェルトをかぶせる、抱き抱えるなどが保温方法として有効と思います。そのようなことをしなければならないとは、あまり考えたくない状況ですが。
では安全な雪山登山を。